アメリカ・メジャーリーグのシアトル・マリナーズに所属する、菊池雄星投手は5月8日(日本時間9日)のヤンキース戦で、7回2/3を投げ1失点と好投し、勝ち投手となりました。
今年からメジャーリーグに挑戦している菊池投手は、4月は適応に苦しみ、期待したパフォーマンスを見せられていませんでした。
8日の試合は、日本時代を思い出させる好投でヤンキース打線を封じ、チームの勝利に貢献しました。
この好投を素直に祝福したいところだったのですが、試合後には別の話題が大きくなり、水を差された形になってしまいました。
その話題とは、菊池投手が「松ヤニ」を使用していたのではないのか、という疑いです。
「松ヤニ(松脂)」は、ボールの滑り止め効果があるため、メジャーリーグでも日本と同様に使用が禁止されています。
試合中に、まず記者が菊池投手の帽子のつばの裏部分が茶色く汚れていることに気づきました。
記者は、試合後にヤンキース・ブーン監督に、この茶色い汚れに気づいていたかと質問。
ブーン監督は、これに対して気づいていたと答え、もしこれが「松ヤニ」なら不正だと報じられたのです。
菊池雄星@松ヤニ
まあおクスリに比べたら可愛いもんやろw pic.twitter.com/W7L43078Sl— なべとも⊿ (@bluebose1) 2019年5月9日
取材を受けたヤンキースの選手たちは、不正の疑惑に関わらず、「菊池投手の投球は素晴らしかった」と答えています。
マスコミはこの話題を取り上げますが、現場の選手たちからは、大きな声は上がっていません。
さて、なぜでしょう?
疑惑が早く晴れて欲しいものですが、菊池投手は日本時代には、若手の時にコーチとのトラブル、そして2年前には「2段モーション」問題と、度々こうしたトラブルの話題で取りざたされるのは不思議なものです。
今回は、野球における「松ヤニ」の話と、過去の事例について紹介したいと思います。
投手(ピッチャー)が松ヤニを使用する理由は?
「松ヤニ(松脂)」とは、松から採れる天然樹脂です。
液体状で粘り気があり、独特の強いにおいが特徴です。
接着剤や合成ゴムを作るのに用いられたり、ヴァイオリンやビオラといった弦楽器の手入れにも使われます。
野球の場合は、松ヤニの粘り気のある特性から、滑り止めとして使われています。
ネクストバッターズサークルで、バッターがバットに何かを擦りつけていたり、スプレーをかけているのを見たことはないでしょうか?
あれは、チューブタイプの松ヤニや、松ヤニが配合されているスプレーを吹きかけているのです。
バッターは、滑り止めとしての松ヤニの使用が認められていますが、ピッチャーは禁止されています。
より慎重に滑り止めを施す愛也。
たいていの選手はスプレーでおしまいなのだが、さらにロージンバッグみたいなのをバフバフバフ。
ピントが迷子気味ながら、この煙の量でバフバフ加減が伝われば、、#西川愛也(18.8.12 メットライフドーム) pic.twitter.com/Wm3npFL7b0
— ほづみさん@5/8前橋12本庄? (@leo_vvv_leo) 2019年1月30日
ピッチャーは、原則として滑り止めはロージンバッグのみが許されます。
ロージンバッグとは、ピッチャーがポンポンと手に付けている白い粉のことです。
ロージンバッグは、炭酸マグネシウム80%+松ヤニ15%+その他、から作られています。
実は、一部には松ヤニが使われているのです。
ボールに直接細工をしたり、何かを付けることも禁じられています。
ですから、ロージンバッグの粉も、手に付けて使われているのです。
外国人のピッチャーが、投球前に指をベロベロ舐めているのを見たことはないですか?
「汚いなぁ」なんて思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これにはメジャーリーグで使われるボールが関係しています。
メジャーリーグで使われているボールは、日本に比べて滑りやすいと言われています。
そのため、国際試合では、日本人投手はこのボールに慣れることが大きな課題になるのです。
また、メジャーリーグに挑戦する際も、投手にとってはこのボールへの適応が課題になります。
滑りやすいメジャー球には、メリットもあり、変化球の変化が大きくなりやすいです。
しかし、やはり滑りやすさはどの投手にとっても悩みであり、あの手この手で工夫をしています。
指を舐めて湿らせるのはもちろんですが、汗を指に付ける投手もいます。
アメリカに渡った松坂投手が、額の汗を使っているのが印象的でした。
唾は抵抗があったのでしょう。
ここからは憶測になります。
実は、メジャーリーグでは、ほとんどの投手が松ヤニを使用しています。
「え?反則じゃないの?」
その通りです。
ですから、皆”うまく”やっています。
ポケットの内側に松ヤニを付けたり、帽子のつばに付けたりと、分からないようにです。
だって、滑るものはしょうがないですから。
松ヤニの使用は、いわば”暗黙の了解”となっています。
その代わり、「バレないように」、「分からないようにやれ」というのも、暗黙の了解です。
指摘せざるを得ないほどであれば、見過ごすことはできませんから。
菊池投手は、日本時代から投球の度に帽子を触って、かぶりなおす癖があります。
ですから、土とロージンが混ざった汚れが付いていたのではないかとも思われます。
仮に、あれが松ヤニだったとして話を進めるなら、あんなに分かりやすく付けていたのが問題です。
例えるなら、交番の前で赤信号を渡るようなものです。
警官だって、目の前で見てしまえば、注意せざるを得ません。
相手の選手たちから非難の声が聞こえてこないのも、これが”暗黙の了解”であるからです。
厳密に松ヤニの使用を取り締まれば、自チームのピッチャーにも及んでしまうからです。
メジャーリーグを代表するトップレベルの投手であっても、帽子、グローブ、またはスパイクなどに「茶色い何か」が付いています。
今回の疑惑が事実なら、非難されているのは「松ヤニを使ったこと」ではなく、「隠せていないこと」です。
https://youtu.be/byIsnqYi9K0
「松ヤニ」等の使用がバレて不正投球が認められた場合の処分内容について
メジャーリーグの規定では、松ヤニやワセリンなどを使用した不正投球が認めらえた場合、10日間の出場停止処分が科されます。
たったの10日間です。
先発投手なら、登板機会を1、2回休むだけなのです。
それだけ大きな罪ではないという意味でもあります。
過去に大きな話題となったのは、2014年、ヤンキース・ピネダ投手の松ヤニ使用でした。
2014年4月23日、ボストン・レッドソックス対ニューヨーク・ヤンキース、会場はレッドソックスのホームであるフェンウェイ・パークでした。
その日のボストンの気温はまだ低く、だらだらと汗をかくようなことはありません。
しかし、先発したヤンキースのピネダ投手の右耳下の首筋には”茶色い何か”が。
回を追うごとに茶色の範囲は広がり、ついに見かねた審判が確認することに。
「松ヤニ使ってもバレないだろ」
「あれ、松ヤニだよな?」
「なんで首筋に?まる見えじゃないか」
「おい、大きくなってないか?」
「何であいつは隠さないんだ?おかしいのか?」
「もうだめだ、止めろ止めろ!」
このように考えていたかは分かりませんが、4月10日にもピネダ投手の手のひらには”茶色い何か”が付いていた、と問題視されたばかりでした。
結局ピネダ投手は、10試合の出場停止処分を受けました。
ですが、”松ヤニ”問題を声高に言うのは、メディアや一部のファンだけです。
現場の選手、監督やコーチらからは、非難の声は聞こえてきません。
なぜなら、”みんなやっているから”です。
それを指摘すれば、誰もが”ズル”をしていることになってしまいます。
ですから、この問題の解決法は、「ルール改正」か「うまくやる」ことの2択だけなのです。
菊池雄星投手に松ヤニ疑惑!使用する理由や不正投球での処分内容について まとめ
- メジャーリーグと日本のプロ野球では、ピッチャーが「松ヤニ」を使うことは禁じられている
- 「松ヤニ」は松から採れる天然樹脂
- 野球では滑り止めに使われる
- バッターは松ヤニを使えるが、ピッチャーが使える滑り止めはロージンバッグだけ
- ロージンバッグにも松ヤニは入っている
- でも、実はメジャーリーグでは皆「松ヤニ」を使っている
- ”バレないように”こっそり使うことがマナー(ポケットの内側、帽子、グローブ、スパイクなどに分からないように付けておく)
- なぜなら、メジャーリーグのボールはとても滑りやすいから
- 問題なのは「松ヤニを使ったこと」ではなく、「隠せなかったこと」
- 松ヤニの使用が認められると、10試合の出場停止の罰則が科される
- 2014年にはヤンキースのピネダ投手がこの罰則を受けた
- 4月23日に先発したピネダ投手の首筋には、不自然な”茶色い何か”が付着していた
- 試合の経過とともにその範囲は広がり、注意せざるを得ない状況になってしまった
- ピネダ投手には、4月10日にも”松ヤニ疑惑”があった
- 選手、監督やコーチらからは非難の声はない(なぜなら皆やっているから)
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