クレイジージャーニーチーズ職人山口潮久のアボンダンスチーズとは?

4月24日に放送された『クレイジージャーニー』は、チーズ職人の山口潮久さんがゲストでした。

山口潮久(やまぐち みちひさ)さんは、1974年生まれの現在45歳、東京のご出身です。

15歳の頃から、自転車競技をはじめ、ツール・ド・フランスを見るのが楽しみだったそうです。
高校の頃から、酪農に憧れはあったそうですが、この頃はまだチーズには興味がありませんでした。

大学では国文学を学び、企業に就職しましたが、3年半で辞めました。
酪農家を志し、2002年9月からフランスへ行きました。

はじめは語学留学生でしたが、その後は肉牛農家で2年間の研修を経験しました。
この研修の中で、アルパージュ(Alpage)を体験し、チーズ作りの面白さに引かれたのです。

アルパージュとは、夏の間に、牛をアルプスで放牧することです。
夏のアルプスには、花や草がたくさん出ていて、牛たちにこれを食べさせます。
そして、これがチーズの材料となる、質のいいミルクになるのです。

山口さんは、フランス国立酪農・畜産学校でチーズ作りを学び、2007年に卒業されました。

それから、サヴォア県にある農協経営のチーズ工房に勤め、2009年からは現在の職場でもある「フルティエ・デ・ペリエル」に勤務されています。

2015年には、フランスで最も権威がある、パリ農業コンクール・メダイユダルジャン(銀賞相当)を日本人では初めて受賞されました。

それでも、山口さんのチーズ作りへの探求に終わりはありません。
「伝統のチーズ作り」に挑む男、山口潮久さんのクレイジージャーニーを見てみましょう。

チーズ職人山口潮久さんが作るアボンダンスチーズとは?

山口さんが暮らす、サヴォア県アヌシーは、パリから4時間の場所にあります。
スイスやイタリアの国境に近く、アヌシー湖には多くの観光客が訪れます。

山口さんは、2003年からサヴォア県に移り住み、17年間在住しています。

ディレクターと会ったのは、午前11時でしたが、すでにこの日のチーズ作りを終えていました。
そこで、アヌシー旧市街のマルシェに向かいました。

マルシェは、さすがフランスといったおしゃれな雰囲気で、店がいくつも立ち並んでいます。
目を引くのはチーズ専門店で、露店が軒を連ねていました。

チーズの歴史は古く、紀元前6000年頃から存在する人類最古の加工食品です。
現在流通しているチーズは、およそ1000種類以上と言われています。

  • ハードタイプ
  • セミハードタイプ
  • フレッシュタイプ(モツァレラチーズやクリームチーズ)
  • 白カビタイプ(カマンベール)
  • 青カビタイプ(ゴルゴンゾーラ)
  • ウォッシュタイプ(チーズ表面を塩水や酒などで洗って熟成させたもの)
  • シェーブルタイプ(ヤギのミルクを原料にしたチーズ)

と、ナチュラルチーズだけでも、大まかにこれだけ分類できます。
私達が普段スーパーなどで買っているチーズにも、「ナチュラルチーズ」の表記がありますが、なかなか知る機会はなかったりもしますね。

ハードタイプやセミハードタイプは、水分量を抑えて長期熟成させたチーズです。
あの、丸くて厚みのある、大きなチーズです。
これらは、「山のチーズ」とも呼ばれています。

山口さんが作っているのは、「アボンダンスチーズ」という種類です。

この「アボンダンスチーズ」は12世紀頃のフランス・サヴォア地方アボンダンス渓谷にある修道院で、修道士たちによって作られたチーズです。

このチーズの良質な味わいは評判となり、ローマ皇帝を選出する会議の食事で振舞われた、歴史あるチーズです。

アボンダンスチーズは、横に窪みのある、特徴的な形をしています。
滑車の溝のようですね。

これは、昔は山を下りる際には、チーズにロープを巻いていたためだそうです。
現在では、その名残として、そして「アボンダンス」であることを示す意味で窪みが付けられています。

アボンダンスチーズは、セミハードタイプに分類され、山のチーズでもあります。
他のチーズにはない独特の風味は、ヘーゼルナッツの香りにたとえられることもあります。

アボンダンスチーズは、伝統と由緒あるチーズです。
そして、その製法も伝統にのっとって今も作られています。

しかし、ミルクや気温など様々な条件の変化に味が左右されやすく、コントロールするのが困難なのだそうです。
同じチーズが出来上がることはなく、それぞれのチーズにストーリーがあります。

山口さんは、アボンダンスチーズのこうした奥深さにも惹かれたそうです。

アボンダンスチーズの工程は6つ

アボンダンスチーズを作る工程は6つ。以下に説明します。

①搾 乳

アボンダンスチーズの原料となるミルクは、アボンダンス種の牛から採れるミルクでなければならないそうです。

山口さんは、成牛から子牛まで140頭の牛の世話を一人でされています。
牛たちは、朝夕2回、経営者のエイミーさんによって搾乳されています。

牛が乳を搾られたがっているのが、面白かったです。

牛舎の隣には搾乳小屋があり、1頭あたり10リットルのミルクが採れます。
90頭×10リットル=900リットルのミルクが採れますが、ここからできるチーズは、たった100kg弱です。

②凝 乳

新鮮な搾りたてのミルクに、乳酸菌を加える

ミルクは発酵して、雑菌に強い保存食に変身

さらに、魔法の液体「レンネット」を加える(”にがり”のようなものかな?)

30分ほどでミルクは固まってしまう

”魔法の液体”レンネットの正体は、子牛の胃からとった消化酵素でした。
ミルクが消化酵素で固まるなんて、なんだか神秘的ですね。

こんな逸話もあります。
紀元前12世紀頃、アラビアの商人がヤギのミルクを、乾燥させた羊の胃袋で作った水筒に入れて砂漠を渡りました。

砂漠を渡り終えてミルクを飲もうとしたところ、水筒の中身は固まっていました。
恐る恐るそれを口に入れると、とてもおいしかったそうです。

これがチーズが誕生した瞬間だったとかそうでないとか。

太古のチーズ作りは、今も受け継がれているのです。

③裁 断

これは、ミルクが凝固するのを助けるために、水分を抜く工程です。

ワイヤーが張られた金属製の棒を使って、釜の中をかき回していきます。
微妙な手の感覚で、塊の粒が均一になるようにするのだそうです。

作業を始めてから、ここまでで午前8時です。

④型 詰

釜の温度を45℃に上げます。
さっきよりもシャバシャバになったように見えますが、すくってみると、手には小さなチーズの原型が。

分離した上澄みの水分を、バケツで取り除きます。
それから、首から麻布をかけ、45℃の元ミルクからチーズの原型をすくい取っていきます。

水気を切っては型枠にはめ、これを繰り返して12個の型に詰めます。
さらにこれを圧搾機でプレスし、水分を抜きます。この脱水には、丸一日かかります。

それは、水分をしっかり抜くことで、長期保存が可能になるからだそうです。

⑤塩漬け

型枠を外したチーズの原型は、マルシェで見たあの形です。
これを「熟成庫」という部屋で、半日置いて冷まします。

それから、塩水に漬けます。
塩を浸透させることは大事で、ヘーゼルナッツ的な風味が増すとともに、保存性も高まります。

さらに、乳酸菌や青カビといった有用菌の働きも促進されるそうです。

⑥熟 成

チーズに製作日を書き込んで、乾燥させます。

低温で湿度の高い熟成庫には棚が並び、チーズはここで100日ほど寝かされます。

その間に、微生物や酵素が働き、風味や味わいが増すのだそうです。
そして、定期的に表面を塩水で磨き、雑菌を取り除いて熟成菌を増やす世話も欠かせません。

100日が経過した頃には、白かった色も熟成されて薄茶色に変わります。
こうした手間暇をかけて、アボンダンスチーズは完成します。

クレイジージャーニーチーズ職人山口潮久のアボンダンスチーズとは?まとめ

チーズ職人・山口潮久さんは、フランス・サヴォア県アヌシーで「アボンダンスチーズ」を作っています。

アボンダンスチーズは、12世紀頃にア本ダンス渓谷の修道士によって作られました。
このチーズは、ローマ教皇を選出する会議の食事にも出されたという、歴史があります。

ヘーゼルナッツのような香りと、横に窪みのような溝がある見た目が特徴です。

アボンダンスチーズの工程は、搾乳、凝乳、裁断、型詰、塩漬け、熟成の6つです。

様々な条件が常に変化するため、同じチーズはできません。
それぞれのチーズにストーリーがあります。

山口さんは、作ったチーズを食べた人が、幸せになってもらえたら嬉しいと語りました。

また、職人がしっかり作っていることが伝わるチーズ作りを心掛けているそうです。

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